シェーパーとサーファーが“トライ・アンド・エラー”により理想を求めてサーフボードを進化させていた時、工業の進歩がサーフボードに技術革命をもたらした。新たな材質による軽量化やフレックス性がスピードや回転性とサーフボードの反応を高めたことで、サーフィンの競技としての展開を広げ、スポーツ・娯楽としても変化をもたらした。
サーフボードを選ぶときに一度サーフボードの材質についても気にしてみると良いと思う、サーフィンをより理解できることになるだろう。
サーフボードの歴史
サーフィンの起源である紀元前より1950年代初頭までサーフボードのコアは木材だった、無垢の木材(レッドウッド)を削っていたものから内部を中空にするホロー構造やバルサ材へと軽量化が試みられ、第二次世界大戦の副産物であるグラスファイバーを木材の表面に巻くことで強度と耐水 性を補うようになった。50年代後期にコアの材質に発砲フォームが採用されるようになると、ボードの軽量化とともにサーフボードのデザインの多様性が可能になった。
一般的なサーフボードの製造工程
・サーフボードのコアとなるブランクスを選びシェイプ
・補強用のクロスとレジンでラミネート
・フィンを取り付けてレジンでホットコート
・表面の仕上げにサンディング
ブランクス[ blanks ]
アメリカのクラークフォーム社がポリウレタンによる発砲フォーム(foam:泡)のブランクスを開発し、米国の約9割、全世界の約6割のコア供給を占めていたので、当時ほとんどのサーフボードのブランクスにはポリウレタンフォームが使われていたことになる。2005年の突然のクラークフォーム社の廃業で、サーフボード業界は騒然としたが今では代わるブランクスメーカーがポリウレタンフォームや新たな材質のブランクスを開発することでサーフボードは軽量、強度、フレックス性と進化している。
- 材質
- ポリウレタンに発泡剤を加えて作られる発泡フォーム、ポリウレタンフォームのブランクス。
- 特徴
- 発泡フォーム全般の性質として材質の中に気泡があり軽量で浮力がある。適度なしなりがあり木製のサーフボード以降、長年使用されてきた材質、他に比べると安価なため製造コストが抑えられます。
EPS(expanded polystyrene)サーフボード
- 材質
- ポリスチレンのビーズ法による発泡フォーム。ビーズ法は梱包に使用する発泡スチロールと同じ製法ですが、強度、難吸水性、シェイプのし易さを追求してサーフボードの材質へと進化させたブランクス。
- 特徴
- ポリウレタンより軽く浮力があり、強度も高くフレックス性もアップしています。パワーのある波に使用する場合は安定性と加速を得るためにラミネートで重さを調整したサーフボードが良いでしょう。水を吸いやすいので破損には気をつける必要がある。
XPS(extruded polystyrene)サーフボード
- 材質
- ポリスチレンの押出法による発泡フォーム。密度が高く、完全密閉状態の気泡”Closed Cell”Foamで出来ているので理屈では吸水性が無いブランクス。メーカーによって様々な呼び名があり、スタイロフォームは材料メーカーのダウ化工(株)の商標、XTRはXTR社、スーパービース(Super b’s)はDreamDrive社のブランド名。
- 特徴
- ブランクスメーカーのブランド毎に異なるとは思うが材質の特徴として、PUやEPSに比べて強度とフレックス性が優れていて耐久性も高く長持ちする。重さはPUより軽くEPSよりは少し重い。
ラミネート[ cloth ]
シェイプしたボードを補強するためにグラスファイバーを布状に織り込んだガラスクロスをグラッシングして(巻きつけて)、レジン(樹脂)で固めます。クロスとレジンの選択・調合と扱いでもサーフボードの重さや強度、フレックス性が変わります。
ガラスクロス(glass fiber)
- 材質
- グラスファイバーはガラス素材の繊維で強度があるが力のかかる方向によってもろさがあるため、繊維の方向を交差させて編み込んだ布状にして強度を高めます。
- 特徴
- 編み方(番手)、強度・重さ(オンス:OZ)、サーフボードに巻く数によって重さや強度が変わります。
ポリエスタル・レジン(polyester resin)
- 材質
- ガラスクロスを固定させるための樹脂材です。PUサーフボードではポリエスタル素材のレジンを使用します。
- 特徴
- 紫外線にさらされたままにすると日焼けして黄ばんだ色になります。
エポキシ・レジン(epoxy resin)
- 材質
- ガラスクロスを固定させるための樹脂材です。エポキシ系のEPS、XPSサーフボードではエポキシ素材のレジンを使用します。
- 特徴
- ポリエスタル・レジンより強度がありますが、耐熱性が低い(※)ため真夏時の保管には注意が必要です。
※ 一般的には60℃〜70℃以上で変形の危険があります。
ホットコート[ hot coat ]
ラミネートで使用するレジンはガラスクロスの固定用なので重ね塗りできるように表面がべとついていますが、ホットコートで使用するレジンは硬化剤を増やしたコーティング用なのでカチカチに固まります。
サンディング[ sanding ]
ガラスクロスとレジンで覆われたサーフボードをサンドペーパーで削り、シェーパーがシェイプしたボトムコンケーブやレール形状を復元して、強度と重量を調整します。
ストリンガー[ stringer ]
サーフボードの補強材で通常はブランクスの中心部を縦にノーズからテールにかけて埋め込まれています。サーフボードの折れを防ぐ以外にもストレッチ性を高める為にレールに埋め込んだり、木材以外の材質を使用したりします。
木材
- 材質
- 材質はレッドウッドからバルサ材にに変わってきています。また2種類の材質の木材を組み合わせてフレックス性を調整したりします。
PVC(polyvinyl chloride)ストリンガー
- 材質
- ポリ塩化ビニールのPVCストリンガーはEPS、XPSサーフボードに使用します。軟らかいしなりがあり、EPS、XPSサーフボードのように硬度が高いサーフボードのフレックス性をソフトにします。色も木材と違ってバリエーションがあります。
パラボリックストリンガー(parabolic stringer)
- 特徴
- ストリンガーの位置をサーフボードの中心部ではなくレールに沿って埋め込んでいます。ねじれに対する戻しによりボードのフレックス性を高めます。柔軟なフレックス性が特徴なのでEPS、XPSサーフボードのような硬度の高いサーフボードに適しています。リバースパラボリックストリンガーはレールの曲線を内側に膨らました形状で野球ボールの縫い目のような見た目になります。
カーボンラップ[ carbon wrap ]
補強材にストリンガーを使用しないノンストリンガー・サーフボードには、レールをカーボンファイバーで巻いたカーボンレールがあります。カーボン特有の弓を放つようなしなりは非常に優れていますが、さらに発展させたのがカーボンラップ(Carbon Wrap)です。DMSサーフボードのダニエル・マクドナルドによって開発されたカーボンラップはテープ状のカーボンファイバーのクロスをボトム側のノーズから伸ばし、テール付近でレールを巻いてデッキ側に伸ばします。
これまでのブランクス、ラミネート、ストリンガーの材質の進歩はサーフボードの強度やフレックス性を高めるものでしたが、カーボンラップは更にサーフィンをしている動きに対してフレックス性がより効果を上がるようにカーボンファイバーがデザインされています。