DESIGN FOR THEATERGOING
彼女はこの部屋を提供してくれた友人に感謝している。
元保育士の彼女が、このマンションの一室を改装して家庭的保育所を開設したのは半年ほど前の事である。
認可の無い施設ではあるが、保育所不足が深刻であったこの地域では、利用者は多かった。
しかし、騒音の問題から近隣の苦情が相次いだ。
それはやがてエスカレートし、様々な嫌がらせを伴うようになった。
彼女も決して負けてはいなかったが、徐々に心がすり減っていった。
何度も協議を重ねたが和解には至らず、いよいよ舞台を裁判所に移すかどうかという段階に至る。
やりきれない想いでいたが、何よりこれ以上、子供たちを巻き込む事は不本意でもあった。
協議の日が7日後に迫った日の朝。
彼女は保育所の玄関に生まれたばかりの男児が放置されているのを見つける。
それらはさておき、彼には今日までの記憶が無い。
無いというよりは曖昧であって、それがまるで作り物のように感じられていた。
それでも周囲の人たちは、自分として認識して接している以上、その記憶は正しいと思わざるを得ない。
彼はその理由をまだ知らない。
自分が7日間で生まれて死んでいく事を。
つきつけられた期限。
それぞれ最期の一週間。