DESIGN FOR THEATERGOING
2016年夏,新宿駅。
山手線のホームにあがっていく階段で,女の人の悲鳴を聞いた。いままで聞いたことのない,不気味な音だった。
ホームは騒然としていて,なかには震えている人もいた。
ああ人身事故か。
人のあいだを縫って,電車の下を覗きこむ。
その腕は拍子抜けするくらい,あっさり見つかった。華奢なブレスレットをしていた。スマホを取り出した。カシャ。
スマホをポッケにしまいながら,そういえば山手線の新しいデザインのやつっていつから走ってるんだっけ,というようなことを考えていた。なんだかスマホがうまくポッケに入らないなと思って自分の足に目をやると,はっきりわかるくらい震えていた。
「はい下がってください」
作業着のおっさんが,慣れた手つきで黄色いテープをめぐらせていった。
それから毎晩,ぼくのベッドには,あの日,電車に飛び込んだ女が入ってきます。美人です。女がぼくの上で動いているあいだ,ぼくはあのブレスレットが揺れるのをただ眺めています。